大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(う)1338号 判決

被告人 万油庚

〔抄 録〕

所論は、出入国管理令第三条は憲法第一四条並びに憲法前文中の「いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とある趣旨に違反する旨主張するのである。

しから、憲法第一四条は、法文上、日本国民が法の下に平等で差別されないことを規定しているものであることが明らかであり、日本国民と外国人とを差別してはならないことを規定したものではない。もとより入国の自由に関し日本国民と外国人との間の差別を出来る限りなくそうとの考えは、わが憲法の基本的理念である恒久平和、基本的人権尊重の理想の指向するところに合致するものということはできるけれども、後にも指摘する如く、世界における国家対立の現状に鑑みるとき外国人の入国について特定の制限を設けることは、わが憲法の認めているところであるというべきである。従つて出入国管理令第三条が右憲法の規定に違反するとする所論は採用できない。

次に、憲法前文に「いづれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とあるのは他国を無視する偏狭な独善主義的、利己的な国家主義を排撃したものであり、かかる独善的、利己的な国家主義を打破しなければならないことは、わが憲法の基本的理念である恒久平和主義に基くものであり、普遍的な政治道徳の法則であつて、これに従うことが自国の主権を維持し他国と対等の関係に立とうとする各国の責務であるという日本国民の信念と、かくして国境を越え世界を通じて恒久平和を達成しようとする念願を宣言したものというべきであるが、現実において、各国民は各自国家を形成し、国家が単位となつていることから、窮極の理想は理想として、まず国民の福祉保持のために外国人の入国について特定の制限をすることは認めらるべきものであり、わが憲法もこれを除外するものではないと解すべきである。この制限をしたからといつて直ちにこれを独善的、利己的な国家主義であるとなすを得ないことはいうまでもない。出入国管理令は、右の趣旨に基き、本邦に入国し又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理について規定することを目的として定められたものであり、同令第三条はその管理上必要な手続を定めたものであつて憲法前文の趣旨に違反するものではない。

(長谷川 白河 関)

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